東京都青少年健全育成条例改正案について

もうこのタイミングでは遅きに失した感はあるんですけども、とりあえず3月の都議会前に都議各位へ送ったメールの文面を公開してみます。
再提出された案は非実在青少年の時よりも更に悪質になってますが自分の意見はすべてここに集約されてます。
推進派・反対派それぞれ自分の頭でもう一度考えてみてほしいものです。

その1:3/18の都議会前に送付したメール
件名「青少年保護条例改正案について意見します」

前略

BCCにて失礼いたします。
このメールは今月18日に審議予定の東京都青少年保護条例改正案の
審議メンバーである都議会議員先生のうち、HP上でご本人宛の
メールアドレスを公開しておられる先生方全員にお送りしております。

はじめまして。
私は京都市在住でマンガ家のアシスタントをしている○○(本名)と申します。

まもなく審議予定の東京都青少年保護条例改正案について、その内容の
危険さに非常に憂慮しており、本案の廃案を強く願っております。

本案は一見すると「子供の明るい未来を守るため」という大義名分に
よって立っているように考えられます。
青少年の性が悪質な大人によって食い物にされ、感受性豊かなその心に
回復不可能な傷を与える事件が絶えない昨今、至極真っ当な案であると
お考えの先生もいらっしゃるかも知れません。

しかしながら本案は「子供の人権を尊重する」以前に、我が国の憲法で
保障されている言論の自由を著しく侵害していることも間違いありません。
なぜなら本案で唐突に生まれた造語「非実在青少年」の定義が非常に
曖昧であり、担当者の胸先三寸で如何様にも判断可能な、いわゆる
「ザル法」としての性質がとても強いためです。

そして本案は、出版社やアニメーション制作会社がほぼ東京都内に一極集中
している現在、可決されれば法律と同様の拘束力を持つことになります。
本来的に法律の下位存在であるべき条例が法律なみに機能することもまた
憲法違反となります。

本案で規制を行おうとしているマンガ・アニメーションは活字と同じ
表現の一手段です。
表現とは――内容の貴賤を問わず――受け手の感性に何かしらを訴えかけ、
感情を大きく揺さぶることそれ自体が本来の目的です。
本案は極論すればそうした表現活動全体に向かって
「感情を一定以上に揺り動かす表現はけしからん。
そんなものが存在してはならない」
と言っているのと同義なのです。

確かに活字に比べて絵がより直感的に人間の心理に働きかけることも間違い
ないでしょう。ですがそれを理由にマンガやアニメだけを規制し、活字媒体の
非実在青少年に該当する描写は一切お咎めなし、というのも逆に不思議です。

そもそも国が、自治体が「子供の人権を尊重する」とはどういうことなのか。
子供に何を見せるか、そこから何を得させるかを管理するのは各家庭レベルの
お話です。
そしてあくまで選択権は子供達にあります。
その選択権を頭ごなしに奪うことが果たして「人権を尊重」していると
言えるのでしょうか。
世界の多様性、自由意志に基づく選択の価値を知らないままに成人させ
社会へ送り出すことが「教育」と呼べるのでしょうか。
それとも本邦では公民権だけではなく基本的人権も子供には存在せず、諾々と
大人の敷いたレールを進みなさいとする方針なのでしょうか。
どちらにせよ違憲であることは疑いありません。

ロックの譬えを出すまでもなく、自分の理解の埒外で盛り上がっている若者に
眉を顰める老人、という構図は過去連綿と続いてきました。
そうしたジェネレーションギャップで不当な暴力を受けた経験を持たぬまま
権力を手にできる年齢になったエリートは時として権力を振るう際の力加減が
わからない場合があります(石原都知事に関しては過去の意趣返しのつもり
なのかも知れませんが)。
今回の問題も根は同じと考えます。
権力を笠に着たヒステリックな運動を是とするのが近代日本の歩むべき
道なのか。甚だ疑問です。

また本案は同時に、世界的に行われている所謂「ゾーニング」が少なくとも
東京都では意味をなしていないと開き直って見せることになります。
世界に名だたる識字率を誇る日本の首都が都民の文盲を喧伝するわけですから
なんとも滑稽なお話です。

ここで誤解なきようお願いしたいのですが、私は児童ポルノ規制には
勿論賛成です。
実際に子供が害される以上ゾーニングの徹底で済む話ではありません。
児童ポルノ問題と本案を地続きに考えるのは、それこそ現実と虚構の区別が
ついていない愚考であると断言します。

私自身は政治に不勉強ではありますが、そんな私でも本案の孕む危険性は
充分に推し量れます。
改めて本案の廃案を強く希望し、このメールとほぼ同じ主旨の内容のメールを
私の住む選挙区の国会議員各位にもお送りする予定です。

乱文失礼いたしました。

草々
2010年3月16日

その2:先の都議会にて「継続審議」の判断が下されたのを受けて送付したメール
件名「青少年保護条例改正案の継続審議について意見します」

前略

BCCにて失礼いたします。
このメールは現在継続審議中の東京都青少年保護条例改正案の
審議メンバーである都議会議員先生のうち、HP上でご本人宛の
メールアドレスを公開しておられる先生方全員にお送りしております。

3/16付で件名「青少年保護条例改正案について意見します」にて
東京都青少年保護条例改正案に関して意見差し上げた○○(本名)と申します。

本案が都議会において継続審議と判断され、より深い議論が必要であると
議会の意見の一致を見たことに対して、本案へ大きな危惧を抱いていた者として
非常に嬉しく思います。

意見メールでも申しあげた通り、本案は青少年の健全育成を大義名分とした
憲法違反の言論弾圧につながるあまりにも無茶な規制内容を含んでいます。
たしかに「表現」と呼ぶには些か行きすぎた内容のものもあるでしょう。しかし
それを規制するのはあくまでも出版社および原作者のモラルに任せるべきで
行政の判断に委ねる性格のものでは決してないと考えます。
今回の継続審議に至る議論の中でこうした冷静な意見がほぼ総意として
出てきたことを大いに評価します。

児童ポルノ規制に関して世界的にも先進国であるアメリカでも2002年には
広範な二次元の規制について連邦最高裁判所で違憲の判決が出ており
(Ashcroft v. Free Speech Coalition, 2002)、この条例が世界レベルでも
異常であることは否めませんから、今回の議会の判断は至極真っ当であると
考えます。
さらには日本のマンガやアニメーションへの関心が深いフランスでも本案は
話題となっているそうで、もはや問題は日本だけの狭い範囲では
なくなりつつあります。

参考記事「秋元貴之の電子辞書と電子書籍のブログ:
          東京都、児童ポルノ取締り強化を検討」
URL→http://shacho.thoton.co.jp/?eid=971296

また本案を推進するメンバーの中に、かの志布志事件当時に鹿児島県警本部長と
いう事件の当事者も同然のポストに就いていた倉田潤氏がいらっしゃることにも
非常に強い違和感を覚えます。
言葉は悪いですが、倉田氏のようなウォーモンガー的人物の前では本案は
まさに狂人に新たな刃物を与えてしまうようなものであるとさえ感じます。

本案の継続審議につきまして、先生方には引き続き廃案も視野に入れた上で
最大限に冷静かつ中立的な立場での議論を望みます。

草々

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