WF☆20に行ってきた・その4『色は塗られてないんですか』

※手元のメモを見つつ思い出しながら書いているので、随時修正or追記が入ります。悪しからず。誤記に関してご指摘いただいた読者の方、ありがとうございます。

まだ業界全体が大らかだった時代に事実上の終焉をもたらしたのは、現役弁護士を招いてB-CLUB誌上に掲載された記事『版権とはなんぞや?』だった。
この記事掲載の時期を境にB-CLUB誌は未だ版権無法地帯の様相を残すWF、ひいてはそのWFの片棒を担ぐホビージャパンに対するバッシング同然のネガティブキャンペーンを展開する。それまでWFでのバンダイ絡み版権、主にガンダムものへの認可の仲介役にあたっていたB-CLUBが’91年に『ジャパンファンタスティックコンベンション F-CON』を旗揚げしたのも、企業利益の保護というよりむしろ直接的に「WF潰し」にかかるためだったのだろう。事実この動きによりJAF-CONと呼称を改めアマチュアディーラーの参加も可能になった’92年、初めて海洋堂主催で開催されたWFの動員数は前回比で約7割にまで減少しており、以後数年は「ガンダムのガレキを売れるJAF-CON、それ以外のWF」としてディーラー・一般参加者に認識されることとなる。
当時の模型誌を並列して読みかえすと「あ、今はココとココが仲悪くてココとココはちょっと仲直りしたな、って言うのが順番に移動していってた(浅井氏談)」のが見て取れるという。

さて。マックスファクトリー製品で浅井氏が衝撃を受けたとして真っ先に挙げたのが『OVA機甲界ガリアン・鉄の紋章』鉄巨神のソフビキットである。
ソフビキットと言えばワックス原型にメッキをかけて金型を製造する工程の都合上どうしてもモールドやディテールがヌルくなりがちで、レジンキャストに比べて造形的に弱いものであるという当時の認識を180°ひっくり返すクオリティで発表されたそれに浅井氏の目は釘付けになった。
またマックスファクトリーと共同でWAVE(当時のラーク)がL-MAX名義で発表した『完全変形バウンドドッグ』ではソフビキットを謳いながら一部に組み込まれたインジェクション製プラパーツに驚愕し、ガレージキットメーカーもいつの日にかプラモデルを発売できるようになるのではと大いに期待したと語る。
このバウンドドッグは会場内にも購入者がいたようで、「買いましたか!アレ組めたもんじゃないでしょ!」と褒めているのか貶しているのかよくわからない盛り上がり方をしていたのが印象深い。

ちなみに空条が当時のソフビキットと聞いて真っ先に思い出すのは『Superゼビウス・ガンプの謎』3機合体1/48ソルバルウである。たしか’87年ごろ、4800円ぐらいだったと記憶しているが、当時通い詰めていたナムコ直営店に置かれた『NG』誌上で発売予定を知り、『ソルバルウ・ソルグラード・ゼオダレイの3機が合体してガンプミッションに!』との記事にワクワクテカテカし、発売日のショウケースに並んだそれをプラモデル感覚で買ったはいいものの箱を開けるとといきなりアイボリーのソフビの塊がごろごろと現れ、組み立て説明書には「ココのバリをカッターで削ぎ落としてください」と書かれていて途方に暮れたものだ。ソフビといえば怪獣やヒーローもののオモチャとしての認識しかなかったオレに塗装はおろか完成させることさえできるはずもなく…いや一応は組んだのか…どっちみちもう捨てたよなあアレ…。

ところでこの『鉄巨神』に関するエピソードがまた面白い。
とにかくやるならとことん、既存のソフビの概念を吹き飛ばすぐらいのクオリティを出さんと息巻くマックスファクトリーは現在「ワックス(ロウ)原型の上にメッキをコートし、これを加熱することでワックスを溶かし出しセミの抜け殻のように残ったメッキで金型を作る」のではなく「レジン原型の内側を手作業でくりぬいてそのまま複製原型にする」 手法を採っている。原型がレジンそのままであれば当然メッキコートに比べてディテールの再現性は高くなるが、なにしろソフビという材質の都合上かなり薄く内側を削り込んでやらなければならず非常に手間がかかるわけだ。
ここで明らかになったことなのだが、実は『鉄巨神』は後者の方法ではなくまだワックス原型で作られたもので、現在の手法に移ったのは次の『人馬兵』からであったという。つまりあのクオリティは泣きが入るほど何度も何度も工場にダメ出しして得られたワックス原型の限界中の限界だったのである。そして原型をくりぬく手法自体も特にマックスファクトリーが編み出したわけではなく、死ぬほどダメ出しされた工場側が「そこまで言うなら『焼き出し』って方法もあるんだよね…手間がかかるから今はもうどこもやってないけど」とポツリと漏らした、言うなれば『枯れた技術』だったというのだ。また工場側がこれほど追いつめられるまでこの『焼き出し』を切り出さなかったのもワックス代でがっぽり取れる工賃がまるごと消えてしまうからで、要するにカネとナキを秤にかけてナキを取ったがゆえの結果だったのだ。口は出すわ金払いは悪いわ、ロクな客じゃなかったんだなあ…。

閑話休題。そうした『ソフビとしては勿論のことガレージキットとしても異例のクオリティで商業的価値は十二分に持っているとはいえ、じゃあこれは何かと問われればやっぱりガレージキットとしか呼べないかな』という不思議なスタンスにあるように見えたマックスファクトリー製品を当のMAX渡辺氏はどのような志のもと開発していたのかと訊くと、確かに「ガレージキットと言われるモノから脱却したかった」と氏は述懐する。
伊藤氏がガレージキットの定義として挙げる『ある造形物のレプリカ』に賛同するMAX氏の中では、その当時のWFの主役とも言えるキットたちは極端に言ってレジンの塊でしかなく、原型製作者として受け手にはより自分の思い描く理想形に近づけた完成形、それが無理ならせめて半完成状態で届けたいという思いがあったのだろう。そうした意志が働くのであれば確かにガレージキットという言葉自体が哀しいかな、どこかで足枷にもなるのかも知れない。
氏が今もなお『MAX塗り』や『コピックモデラー』開発などに代表される「可能な限り手間を減らして完成させる技法」の追求に余念がないのもうなずける話だ。PGガンダム作例記事の際に「サラリーマンでも作れる」と銘打ったのは、或いはMAX氏を残して模型の世界から遠ざかっていった『まだ見ぬ同世代の同志たち』への存在証明でもあったのだろうか。

このようなMAX氏の考えの前に浅井氏もいきおい饒舌になる。いやもう充分に饒舌なんだがそれはおいといて。

浅井氏自身も「自分にとっては原型のクオリティを3割落としてでも完成品として提供できる状態の方が思い描くゴールに近い」と語る。
『サムライスピリッツ』柳生十兵衛とタムタムを発表、ゲーム雑誌などへの露出も多かったことから女性が購入しに来た際、ごく普通に投げかけられた「あ、色は塗られてないんですか」との質問に、自分がこれまで当たり前として考えもせずにいた部分――いわば版権商品としての不完全さを指摘されたようにも思えたのか――に直面し「できることならこの人にも完成品で届けたいなと思った」のだそうだ。このへんの感覚はレイキャシールを見ていてもなんとなくわかるように「作った物に対する受け手のアンサー」までがあって初めてガレージキットが表現活動として完結するという浅井氏の基本理念とでもいうか、根底にある譲れない部分の直接的な発露なんだろう。勿論このへんのスレショルド(しきい値)はディーラーによって千差万別十人十色であって当然だし、むしろそうであるべきだとさえ個人的には思う。ただしそのスレショルドが試行錯誤の賜物でなく思考停止の結果であるならちょっと哀しい話だな、とも思う空条さんだった。

だからMAX氏も浅井氏も、高品質の完成品を安価で手に入れることのできる現在の状況が「とても幸せ」だと言う。ガレージキット発の完成品が量販店に並ぶ姿も珍しくなくなった今、その流れを楽しんで1人でも多くの人に模型に触れてもらわんと職人的な場所を目指すのも、一方それでも敢えて全てのクオリティを自分自身で管理できるイベント限定キットの市場にこだわり続けるのも、どちらも同じ求道心なわけだ。
続く第3部で浅井氏が漏らした「僕がやってることってよくガレージキットじゃないって言われることがあって、今まで自分ではそんなこと思ってなかったんですけど…今日喋っててわかりました、確かにガレージキットちゃいますわ」という言葉は、逆に彼自身の中に強くあるガレージキットへのこだわりを見せつけてくれたようでとても面白かった。
その姿勢、意地は伊藤氏からの「(クオリティを3割落とすとは)完成品だから手を抜くってこと?」との問いに淀みなく返されたこの回答が如実に語っている。

「違います違います。完成品っていうラインに乗せる以上どうしてもこっちの出したものからクオリティが落ちてしまうってことです。だから3割落ちるってわかってるんなら僕は130パーセントで作って出しますから

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