3回目を観て式波さんを考える

金曜日に通算3回目の『破』鑑賞。
以後はまたしてもネタバレ満載なので未見の人は読み飛ばし推奨。

…と言っても今回は巷間で取り沙汰されている「あの描写どうだったっけ?」的な箇所のおさらい&答え合わせのつもりで観に行った部分が大きかったんだけど。

まず『謎の円盤UFO』へのオマージュ描写はタブハベース上空をゲンドウ達の乗る月往還機が漂うそのさらに上、ロンギヌスの槍と思われる大きくて長い物体を牽引していたのがおそらくS.I.D.。
月往還機がイーグルトランスポーター、もしくはカラーリングからレスキューイーグルだと言ってる人もいるみたいですが、あの月往還機はイーグルにしてはフォルムが細いです。またそれがコンテナを積んでいない状態だとしてもイーグルならば船体の全体にトラス構造が認められるはず。そしてそれ以前にイーグルは『UFO』ではなく『スペース:1999』に登場するメカなのでクレジットとの矛盾が出ちゃう。

「今回はリッちゃんがやけに大人しい&ゲンドウもそれほど外道じゃなさげなので、ひょっとするとリッちゃんママに絡んだ愛憎劇がないかも」という予測から綾波はもしかしてまだ1人目なんじゃないか?と予想を発展させているのを見ましたが、調整槽に浸かっている綾波にゲンドウが「食事にしよう」と呼びかけるシーンで彼女が着けている首輪には『REI-02』の刻印があったので経緯は不明ながら綾波はやはり2人目の可能性が濃厚。

某所で「バルディエル戦後アスカの荷物がまとめられたコンテナに貼られたネームプレートに記された苗字が『惣流』だった」という目撃証言がありましたがこれは間違い。ちゃんと『式波』でした。空条さん映画鑑賞の際は度がピッタリのメガネかけるんで自信あります。

シンジがミサトの家を出るシーン、ミサトが留守電のたまった携帯を手渡そうとするところでケンスケの苗字を「あいはらくん」と言っている。これは2度目に観た時から気になっていて聞き違いかと思ってたけどやっぱりそう呼んでました。でもその前、トウジの妹が退院したとシンジに告げる登校シーンでは委員長から「おはよう、相田くん」と呼ばれていたし、『序』のシャムシエル戦で発令所のモニタに表示されたIDでも「相田ケンスケ」となっていたのでこれはミサトの覚え違いか、あるいは台本での誤記・読み間違いのどれか。そもそも今回は「第壱中学校に通う生徒全員がマルドゥック機関によって選出されたエヴァパイロット候補」という設定すらない雰囲気だったことからケンスケはおろかトウジも参号機パイロット候補に含まれていないようだし、むしろ苗字を覚えられていただけありがたいと考えるべきなのか(;´Д`)

クライマックスの『翼をください』のイントロ、最初にピアノで入ってくるコードがやっぱり『甘き死よ、来たれ』に酷似している気がして、でも考えすぎかなあとか思ってたけど『音楽図鑑:近況報告』さんのこのエントリでもこの点に触れられているのを見てあああそこで一瞬ギクッとさせられたのは自分だけじゃなかったんだと確信。そういや女性ボーカルとコーラス含めてバンド構成もそっくりだもんね。

…とまあ大きな答え合わせはこんなところ。

しかし3回観て改めて旧シリーズとの違いを実感するのは、今回はどのセリフにも相応の重みが込められている点。
そしてそれに気づくと途端にアスカ周辺の描写がどれもこれも深い意味を帯びていることがわかります。
アスカの尺は短いけど短いなりに練りに練ってあるんだなあと感心。
以下考察。

「日本人の信条は察しと思いやり」というミサトのセリフは九話でアスカに対してかけられた言葉だけれど、正直なところ九話の流れではただ単に大人が子供の純粋な疑問をはぐらかそうとしているだけ(同時に視聴者を煙に巻こうとしているだけ)にしか聞こえませんでした。
ところが『破』ではまさにこの「察しと思いやり」という言葉がアスカに確固たる影響を与えてます。

人形のようだった綾波の中に芽生えたばかりの恋心を「察し」、そんな彼女とシンジを「思いやって」アスカが参号機のテストパイロットに志願したのは明らか。

このエレベータのシーンでアスカは「これだから日本人は」といったセリフを呟いていますが、ここ以外に社会科見学でのやりとりでも綾波に対して「ごめん」と謝るシンジを見て同様の感想を抱いています。

旧シリーズを踏襲するならばここでの惣流さん流のキレ方は
「アンタ男ならもっとシャキッとしなさいよ!内罰的すぎんのよバカシンジ!!」
といった理不尽な攻撃でしょうが、式波さんの場合は異国育ちである自分と日本人の間にあるカルチャーギャップへの戸惑いが先行しているため「なんで日本人は悪くもないのに謝るの!?」となるんですね。
惣流さんを代表するセリフである「あんたバカぁ!?」は彼女の余裕のなさ、遣り場のない怒りが言わせていた感がありました。式波さんがこのセリフを多用しない、使っても文脈的におかしくない=彼女が本気で相手をバカだと思っている箇所に限定されているのも当然でしょう。
なぜなら式波さんには自分を保つ目的で他者を攻撃する必要もなければ、遣り場のない怒りを常に抱えているわけでもないから。

しかしここは産まれ育ったユーロの地から遠く離れた日本。これまでうまくやってこれたはずのことがなんだかうまくいかない。戸惑いが焦りを生んでいたのも間違いないでしょう。
そんな勝手の違う異国の地で指針となるのは、彼女の目指す理想像である「自立した頼れる女」ミサトの言葉。

また社会科見学をしぶるアスカを諭す「和を以て尊しと為す」という言葉も以後サハクィエル戦でのチームワークの効果を目の当たりにして肌で学んでいます。
参号機パイロットへの志願はこの「和」を重んじたが故とも言えるでしょう。

こうしてシンジや綾波たちとの交流の中で察しと思いやり、そして和の大切さをを体得したアスカはミサトに認められ、自らの身の置き所を自分自身で獲得したわけです。

式波さんの芯の強さは「自分で自分を認めている」からこそなのかも知れません。

式波さんが人形に話しかけるシーンで「アイツらともちがぁう♪」と呟いていますが、これは子供のころからエリートとして同年代の子供たちと一線をおいて育てられてきた自分、本来望むはずのない孤独を強いられてきた自分の境遇を正当化するための「エリートは孤独である」という子供っぽい自己弁護と読みとれます。
精神を病み、人形が我が子であるかのように振る舞う母親を見ていたことから、惣流さんが人形と会話する理由は「理解者・絶対的守護者の渇望からくる代償行為」でした。
たしかに式波さんの行為も決してポジティブとは言えない類のものではありますが、彼女にとっての人形はシンジのSDATや綾波のメガネと同じように母子をつなぐ「絆」としてより陽の方向に意味を変成されているのではないかと予想します。

自殺という最悪のかたちで実母を喪い、継母からのネグレクトを受けて育った惣流さんは他者から認めてもらった経験のないまま育ち、結果として自分で自分を認めてやることもできずエヴァに固執せざるを得なかった。
とても残念なことです。
『破』の時点では式波さんの肉親にも同様の経緯があったかどうかが描写されていないため確証は持てませんが、もし彼女にもネグレクトの過去があったならばそれを如何にして克服したのかがQの見どころですね。そしてもしある程度の克服が自分でなされていたのだとしたら、エレベータで綾波から「あなたにはエヴァに乗らない選択肢もある」という言葉をかけられた時点で彼女はエヴァのくびきから完全に脱却していたのかも知れません。…うん、だから参号機のことも受け入れられたし「気に入ったら赤く塗ってよね」と言えたのかも。

ってなことをサントラ聴きながら考えていたらバルディエル戦の曲『2EM29 E5』の不協和音コーラスが
ハー
レー
ルー
ヤー

だったことに気づいて背筋が凍った…(;´Д`)
ってCDのライナーにあるCho譜面見たらそのものズバリHallelujahって歌詞ふってあったよ!

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