庵野秀明展で再確認!第3村ミニチュアの歩き方・前編

いやーやっと見れましたスモールワールズTOKYOの第3村ミニチュア。展示期間が満了する20日がちょうどコミティアだったんでそれにあわせての上京でギリギリの滑り込み。

そこで目にしたのは想像を絶する「仕事」へのアプローチでした。

シンエヴァAパートのレイアウト検討用に作成された第3村ミニチュアは10/1より国立新美術館で開催される『庵野秀明展』でも展示されます。おそらくスモールワールズTOKYOでの約半年にわたる展示よりも庵野展会場で初めて目の当たりにする人が多いであろうこのミニチュアのどこに注目すると面白いか、つごう2時間半ばかり居座って撮りまくった70枚あまりの写真を交えてご紹介したいと思います。
…っていうかこんだけの語りじろがある代物だと知っていればもっと早いうち、せめてシンエヴァ上映期間中に見に行ったのに。全部コロナのせいってことにしよう。

以下、ミニチュア写真のリンク先はFlickrです。

全景 iPhone

順路から展示スペースに入ると真っ先に目に入るのがファーストショットの全景。
扇形車庫から伸びる線路、そこに身を寄せ合うように建っている民家と土手の向こうに見える仮設住宅街、上手にはコンテナヤード。このアングルから見れば第3村が置かれた状況とその機能をワンカットで効果的に説明可能な設計だったことに気づきます。

現在Amazon prime見放題で配信中の『さようなら全てのエヴァンゲリオン ~庵野秀明の1214日~』ではこのミニチュアステージの上に立った庵野が線路の流れを目で追いながら手に持った無蓋車のミニチュアを配置する様子が見られました。大まかな画のリズムを俯瞰でとったあと人間のアイレベルで微調整…これら全ての構造物に対して行われていたと思えばその気が遠くなりそうな作業量。

©カラー

該当シーン。
写真そのまま背景原図に使えるレベルで作り込まれてるのは今さら言うまでもないですね。
ちなみにミニチュアの大部分はレーザー加工でカッティングした合板で組み立てられています。木製なので保存しやすく、軽いので解体・移動も容易。もしかすると後日こうやって展示する時のことまで考えての素材選びだったのかも?

バミリの上から微修正 iPhone

ここで扇形車庫の右手前に置かれた建物に着目。

全ての配置が完成したあとマジックでステージにバミリが入ってるんですが、ステージの端にあるこのミニチュアは来場者の誰かがうっかりぶつかったのか、バミリから数センチほど動いてしまってました。
しかしその結果おもしろいことに、バミリをやりなおしたらしき形跡が養生テープの下に見えます。

先に挙げたドキュメンタリーで何度も何度も微調整を繰り返す庵野の姿にスタッフが「いいところが作れると今度は悪いところが気になる」と理解を示す光景が収められてましたが、これは恐らく劇中で使用されたアングルで本番のフレーミングをとってみた際に「やっぱここもう少しいじろう」と判断された痕跡なのでしょう。

ホームナメ扇形車庫へ

第3村は実在する天竜浜名湖鉄道・天竜二俣駅周辺の風景がその下敷きとして採用されています。
劇中ではほとんどフィーチャーされることのなかったプラットフォームも実景に即したミニチュアで再現してあります。

しかしGoogleマップの疑似3Dからこの周辺図を鳥瞰で確認してみると、実景と共通するのは駅周辺の構造物だけであることが一目瞭然。劇中映像で下手奥に見える湖は本来なら天竜川ですし、その手前には大きめの丘があります。

天竜二俣駅ホーム

使徒襲来からフォースインパクトの期間でこの土地にも地図が書き換わるほどの大変動が起きた…と考察することは可能だと思いますが、自分としてはあくまでもここは「第3村」という架空の土地であり、ディテールが同一とはいえ現実の「天竜二俣」とは無関係であると考えます。だってここが絶対に天竜二俣でなければならないのであれば、実景そのままの写真に上ものをCGで足し引きしたのを背景原図にすれば済む話だから。

天竜二俣駅ホーム iPhone1

庵野の原風景にある転車台の『リアリティ』がAパートの作劇に欲しい、けれど町並みに『リアリズム』は求めていない、そうした謂わばワガママを実現させるためのロケ地選定、ミニチュア作成だったのだろうと自分は考えてます。

天竜二俣駅ホーム iPhone2

当世いわゆる「聖地もの」は珍しくもなくなったので特段の違和感を覚える人も少ないでしょうが、実景が正解として存在する舞台でフィクションのアニメを作劇するというのは制作サイドにとっては大変なんです。
権利関係のクリアも課題ですが(映ってると多額の使用料を払わされるスカイツリーを消すなど生産性皆無の作業を強いられた経験を既に「シン・ゴジラ」の現場で庵野は持ってます)、なにより「実景に存在する物は描写せねばならない」「実景どおりの方向から太陽は昇って沈まねばならない」ことが庵野のようにレイアウト重視の監督・演出家にとっては大きな足枷になってしまいます。

天竜二俣駅ホーム iPhone3

また観る側に舞台の土地勘があった場合「あっここコンビニの隣の○○だ」とか「さっきまで△△にいたのに数分と経たず徒歩で□□まで来たの?」みたいな雑念が入って話に集中できなくなる危険性も孕んだり、果てはそのエピソードが本当にその舞台でなければ語れない性質を持っているのかなど作品自体を俯瞰した視点まで飛び火したり。プロモーションはしやすいけれどしがらみも相応に多く扱いが難しいのも事実。プロモーションの観点で言えばシンエヴァのように本編公開までその情報が極端に伏せられる作品では現実的でないというのもあるかと。

仮設住宅ナメ線路・扇形車庫へ

「なるほど理屈はわかった。つまり庵野は実在しない聖地を作りたかったんだな」と思われた方、それもちょっと違います。
第3村ミニチュアに要求されているのは実在しそうな『リアリティ』の醸成であって、現実にそこで人間が生活可能な『リアリズム』を持った作り込みではありません。

この辺については次回以降のエントリで詳述します。お楽しみに!

丘からの眺望1

Aパート終盤、アヤナミが消えたあとシンジがアスカにヴンダーへの同行の意を表すシーンがこの丘。
シンジ・ケンケン・アスカと犬のフィギュアが劇中イメージに沿って置かれてました。
丘の麓には瓦礫の山のようなディテールがありますが、劇中でここは小さな畑になってます。
ちなみにこの瓦礫はレーザーカッティングで出た端材をボンドで適当に掻き揚げ状に固めたもののようで「ここにディテール欲しいけど具体的には決まってない」という覚え書きのような役割に見えました。

丘からの眺望2

写真では遠景のおおすみ級補給艦の書き割りが劇中イメージより遠くにあるように見えると思いますが、これは間に2メートルほどの通路があるせいで、ステージの端(写真奥)には2箇所タラップの位置関係を示すバミリが切ってありました。

丘からの眺望 iPhone

上2枚は一眼(50mm)、3枚目はiPhoneでの撮影。
ドキュメンタリーの映像内でも監督を含めたスタッフの殆どはスマホで撮影していましたが、ミニチュアのスケールをOゲージ(およそ1/45)準拠としたのもスマホ画角でちょうどいいレイアウトや情報量が得られるよう逆算された結果なのかもしれません。
実際のところ自分も頑張って持っていった一眼よりスマホのほうが取り回しがきいて撮影しやすかったですね。
来る庵野展での展示形態でも同じように寄れるかどうかはわかりませんが、iPhone撮影オススメです。

中編ではミニチュアならではの表現技法についてさらにツッコんだお話をするよ!

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