2枚の定規を組み合わせることで2点透視・3点透視が簡単に描ける、という触れ込みの『パース定規2』。
空条さんも一昨年に半信半疑で導入したんですが、以来すっかり手放せないツールになりました。
そんな先日。某所で作家のお友達と喋っていてパース定規に話題が及んだ時
「あれ使い方いまいちわからないんですよねー。どっか実用的な使い方みたいなページ作ってくれないかなあ」
みたいなことを言っててた方がいまして。
帰ってきて自分でも調べてみると、確かに使い方そのものを改めてレクチャーしたページはあるけど、
じゃあ今まで背景が全く描けなかった人がいきなりこれを使ってまともな背景をガンガン描けるように
なるほどの有用性があるかというとそうでもないよなあと。
そんなわけでより実践的なレクチャーを目指してこのページを作ってみました。
定価3980円と決して安くない買い物を無駄にしてしまわないために少しでもお役に立てればという。ではゴー。
さて、多くの人が背景で挫折する理由。
それは勿論「めんどくさいから」「いざとなったらトーン貼っときゃいいから」っていうのもあるでしょうが
「いくら頑張ってもキャラにうまく背景が馴染んでくれず違和感が生じるから」だと思います。

ざっと殴り描いたこの絵を見て違和感がないでしょうか。その違和感の正体とはすなわち…

「不揃いなアイレベル」これに尽きます。
アイレベルとは直訳のとおり「目線の高さ」。いわゆる水平線です。
地面に対して平行な面の消失点は全て同一の水平線上に揃わなければおかしいわけで、このキャラに合わせて
背景を描くのであれば本棚も箱も俯瞰ではなくやや仰いだ角度で描かれていなければなりません。
この例ではかなり誇張して描いてますが、実際はプロのマンガ家でもけっこうやらかしているミスです。
「バストアップだから気づきにくいけどこれよく考えたら宙に浮いてないか?」みたいなケースに覚えはないですか?
具体的にはこういうの。

じゃあこのミスをなくすにはどうするかといえば…
最終的には「普段からアイレベルを意識してキャラを描く」ことが一番なんですが、実際問題
ちゃんと意識しているつもりでもけっこう無理が出てきてしまうもの。
しかしそのキャラに合わせて背景を描く際にアイレベルを揃えるのと揃えないのとでは大違いです。
どんなに背景が緻密に描き込まれていようとアイレベルがデタラメでは意味がありません。
わけもわからず背景素材集を貼り付けてもしかたがないんです。
背景をアシスタントに任せる場合はもっと重要です。
作家が想定しているアイレベルについてアシスタントとの間でコンセンサスが取れていないことには
いくらリテイクを繰り返しても欲しい背景はなかなか上がってこないでしょう。
背景を他者に投げる時はあらかじめアイレベルを明示しておくことを強くお奨めします。
とにもかくにも大事なのはアイレベル。これだけはまず念頭に置いておきましょう。

前置きはこのぐらいにして、では実践。今回はこの絵に馴染む背景を描いてみることにしましょう。
なにげに雪歩とやよいですが特に意味はないので気にしない方向で。

まずはそれぞれの頭頂部とお尻というほぼ同じ高さの2点を基準にした直線2本を用いてアイレベルを導き出します。
この2本の直線が交わる点を含む水平な直線がアイレベル、というわけですね。
やよいの頭頂部と直線との間に少しある隙間は手前の雪歩との座高差を見込んだものです。
身長差があるキャラからアイレベルを導き出す時は、手前のキャラが奥のキャラの横に立ったら
どの辺りが頭の高さになるかに注意しましょう。

頭頂部を結んだ線にパースプレートを、もう一方の線にチェックシートを合わせるよう重ね、アール検知を行います。
各々の直線は赤でわかりやすくしてます。

アール検知はちょっとしたコツがあるので、それを掴むまではなかなかすぐに適正なアールを見つけられず
四苦八苦すると思います。そこでそのコツを伝授ヽ(`Д´)ノ
便宜上、頭頂部を結んだ直線(パースプレートを合わせる直線)を直線A、
お尻を結んだ直線(チェックシートを合わせる直線)を直線Bと呼称します。
1)直線Aを基準線としてパースプレート(以下PP)を沿わせ、大体このへんだろうと思われるアールで
PPとチェックシート(以下CS)の
アールを重ね合わせる。画像では32cmにアタリをつけて重ねています。
2)1の状態でCSに印刷されている直線と直線Bがほぼ平行になるようアールに沿ってCSをスライドさせる。
3)PPの上にCSが乗っかっている状態でCSから手を離し、CS上の直線と直線Bが重なる位置まで
画像のようにPPだけを持ってCSごと直線Aに沿ってスライドさせていく。
4)CS上の直線と直線Bがおおよそ重なったら微調整して検知完了。

アタリをつけた直後。ここからCSごとPPをスライドさせ確定します。

…というわけで、32cmで検出できました。

アールスリットを用いてアールを書き込みます。どのアールを使ったか覚え書きしておくといいでしょう。

ではこのアールからアイレベルを求めましょう。
アールに従ってPPを定規部分が水平位置にくるところまでスライドさせていきます。
横にあてがった直定規はおおよその直角を出すためのガイド代わり。

これによって導き出されたアイレベルはこの位置となりました。
デジカメ撮影のため曲がって見えますがちゃんと直線ですよ。

さあここからが本番。背景を描いていきます。
まずは雪歩が座る椅子を描くため、基準になる座面の一辺を適当に定規で描きます。
アイレベルが見つかった時点で直線A・B・32cmのアールはお役御免なので消してしまって構いませんが
間違ってもアイレベルは消さないように。

いま描いた辺とアイレベルからアール検知。120cmと出ました。
このアールに沿ってもう一度清書した方が確実なので、先ほど描いた辺は消して描き直します。

直交する方の辺は16cmと出ました。これで座面の下書きはおしまい。
あとはこの二つのアールを使って椅子を描いていきます。

だいたいこんな感じ。

次にやよいの椅子を描きます。ここではちょっと不精したやり方をレクチャー。
まずアイレベルに沿ってこんな感じでPPをあてがいます。

「こんな感じ」というのは、アールがだいたい欲しいラインを持っているあたりでという意味。
厳密にこの角度の直線が欲しい!という場合でなければ大抵この方法でいいでしょう。アール検知めんどくさいし。
見つかったら即アールを書き込んでしまいます。

この方法で適当に作った48cmのアールとそれによる座面の辺。これで問題なさげです。

直交する辺はきちんとアールを検出します。12cm。

やよいの椅子もこんな感じで。
よくよく見ると雪歩の右脚がなんだかおかしいけど、ちゃんと座ってるからさほど気にならないでしょ?

では椅子の次はパース定規で階段を描いてみましょう。
そう、パース定規が使いこなせれば階段だってとても簡単に描けるんです。
手始めにこれまでの要領で壁面とそれに直交する直線を描きましょう。

いま描いた二つの直線が交わる点から垂直に補助線Aを引き、そこに等間隔で目印を取っていきます。
この間隔の幅が段差の高さとなります。ちなみに段差の高さはくるぶしとむこうずねの
中間やや上ぐらいのつもりで描くとそれっぽくなると思います。もちろん民家や山の石段などそれぞれの事情で高さは異なりますが。

次に先ほどの交点から階段の傾斜に用いる補助線Bを引きます。
学校など公共施設の階段は段差:踏みしろ(足を載せる面の奥行き)がおよそ1:2ぐらいの割合、
つまり方程式のグラフで言うy=x/2程度にするといいでしょう。もちろん実際に描く時はパースを見込んで。

PPを使って補助線Aから補助線Bまで線を引きます。これが踏みしろ。
その交点から垂直に線を引き、また補助線Aから補助線Bへ…と繰り返します。
普通の階段は常に相似関係を保っているわけですから、要は製品の説明書にある
「グリッドの書き方」の応用ですね。

アール位置の都合から途中で定規が足りなくなったら直定規をあてがうと楽です。

もうあとはわかりますよね。
定規で段差を等間隔に取ることができない3点透視でも簡単な階段の描き方があるんですが、それはまた機会があれば。

下書きはこれで完成です。馴れてくると椅子の下書きからここまで20分とかかりません。

ペン入れして完成!せっかくだからスキャン&トーン処理してみました。
…とりあえず実践的な2点透視をざっとレクチャーしてみましたがどうでしょうか。
空条さんもほんとに2年前までは背景むちゃくちゃニガテだったんですが、これを使うようになってから
背景を描くのがとても楽しくなりました。…上手いかどうかはともかく(;´Д`)
パース定規の利点はなんといってもその取り回しの良さ。
背景作画のストレスの大半を占めていた「遠い消失点を取るために左右に紙を継ぎ足す」「50cmクラスの直定規をあっちこっち振り回す」
煩わしさから解放され、320cmなんていう遥か彼方に消失点を持つ背景でも細部まで描き込むことが可能になるんです。
もっとも現状で不備がないわけではありません。
わかりやすい点では取り回しをよくするために長さがやや犠牲になっているので消失点が遠くなると定規が足りなくなりがち、
アイレベルが紙の外になる場合はやっぱり紙を継ぎ足さないといけない、といったところが挙げられます。
それにこのレクチャーだって万全とは言えません。
今回は二人しかキャラがいないので多少のウソも誤魔化せますが、これが三人以上となれば
最初からある程度アイレベルと遠近関係を意識して描いていないとどう頑張っても無理が出るでしょう。
しかしそれもこれも実際に「そこそこ正しいパース」を描けるようになって肌感覚を掴んでからでないとお話になりません。
まずはなにより描いて、覚えて、馴れることが肝心です。
そしてパース定規は確実にその一助となってくれるツールであると断言します。
まずはこのページを参考にキャラを椅子に座らせてみたり、階段を上らせてみたり、
窓から半身を乗り出させてみたり色々チャレンジしてみてください。きっと背景作画が楽しくなってくることでしょう。