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ララたん塗装サンプル"|Syndicate this site(XML)|響鬼さん届いた…けど…(;´Д`)"

ナナちゃんのガレージキット製作ガイド

最近また様子が怪しくなりはじめたHDD換装の買い物がてら購入してきました。『ナナちゃんのガレージキット製作ガイド〜フィギュア編』
同じHow toものを描いた人間の視点からちみちみとレビューなんぞをやってみようかという。

架空のテレビアニメ『魔法のチャチャチャ・くるりん★りんくる』の主人公りんくるちゃんに萌え狂うよくわからない着ぐるみの生物。近所の模型店にりんくるちゃんのフィギュアが入荷していたのを思い出し一目散に買いに走りますが、そのパッケージから出てきたのはレジンの塊。
完成品サンプルがほしいとダダをこねる着ぐるみの前に脈絡なく現れたのは「フィギュアインストラクター」と名乗る女の子、ナナちゃん。
本編はこのナナちゃんが着ぐるみにガレージキットの組み立て方をレクチャーするという体で進行していきます。

そんなプロローグでさっそく気になった点が一つ。それは「難しそうに見えてもひとつずつの作業は意外に簡単です」というナナちゃんのセリフ。
初めて購入したガレージキットのパッケージを開けて途方に暮れる瞬間の感情、これってもう「難しそう」とかそういう理屈じゃないのよね。

ただ単純に「無理」って思ってしまう

その折れそうな心をなだめすかして「まずは仮組までモチベーションを持っていかせる」ことが最初に課せられた関門だと思うわけであります。つまり読者に「ああ、無理と思うのは自分だけじゃないんだ、どんなに上手い人でも最初は似たようなもんだったんだ」と、自分の怠惰が理由ではないと良くも悪くも錯覚させてやることが大事なんですよ。そりゃ確かにこういう本をわざわざ買い揃えるぐらいなら少しは自分でなんとかしたい気概はあるんだろうから無理にそこまで背中を押してやらなくてもいいのかも知れないけど、少なくとも無責任に「簡単だよ」と言い放つよりはずっといいんじゃないかと。

次に工具、マテリアルの紹介ページ。
発売元がVANCE(クレオス)である都合上どうしても自社製品を主軸に話を進めなければいけないのはわかるんだけど、それでも使いやすいマテリアルがあるならたとえ他社製品であろうと積極的に紹介した方が業界全体のためにはなるんじゃないかなあ。まあそれでも本編作業の大半はモリモリ使ってるんで、それだけでもよくがんばったほうなのかも知れませんな。

でも本編で一度も使われていないエポパテを、まして使い勝手のまるで異なるポリパテと一緒に紹介してるのはいただけない。工程内で唯一記述が出てくる箇所でも「パーツ表面に見えた穴は、エポキシパテやポリパテで埋めておき云々」とほとんど同じ要領みたいな流し方してるし。
よく掲示板やなんかで初心者の質問に対して「○○ってのがいいらしい。俺は△△を使ってる。□□ってのも最近出た。自分に合ってると思う物を選びなよ」って感じのレスする人を見かけますが(いちいち初心者に構っていられないってのは置いといて)、「自分に何が合うかわからない」から初心者なんですよ。そんなもん経験しながら覚えていくもんだってのももちろん正論なんだけど、だったらその経験者視点でこそ一番間違いがなくて、おおよそ正解に近いものは各時代ごとに(ここを失念している古い人も少なくない)おそらく導き出せるはずで、それ一本に絞って「最近ならこれ使っときゃまず大丈夫。とりあえず今は俺の言うことだけ聞いとけ」というブレのない道標を用意してあげることはものすごく大事だと思うのね。webではなく本という媒体で発表するなら尚更に。
そういう意味でこの無意味なエポパテの記述はとても気になりました。

ゲート跡の処理とパーティングライン消しのページ。
ヤスリがけの際はディテールを損なわないように注意、じゃなくてどうすればディテールを損なうような失敗をせずに済むかをケースバイケースでレクチャーした方がいいと思います。具体的であればあるほど他への応用も利きやすいし、ましてこの本では専用のキットを用意してるんだからやってできないことじゃないはず。
段差や狭い箇所の磨き込み方法として「小さく切ったペーパーを折り曲げてエッジでヤスる」は地味ながら重要なテクニックなんだけど『SATCHIN』で記述しきれなかった(いちおう絵では描いてるんだけどテキストに落とし込めなかった)のが悔やまれます。ということでここはグッジョブ。

軸打ち。
専用キットのパーツ形状を写真で見る限りはいずれも貫通法で事足りるように見受けられるので、ここは無理に鉛筆で十字切って合わせる方法を紹介する必要はないんじゃないかと思います。
「ズレても直せばいいんだよ」と慣れてる人はこともなげに言いますが、初心者にとってはパーツにドリルで穴を掘る作業自体がものすごく勇気の要る行為なんですよ。たしかに大失敗したとしてもパテ充填すれば後戻りできるかも知れない。けれどそれは決して「undoではない」ってのは精神的に非常に高いハードルなわけで。
だからここはより確実性の高い貫通法のみに焦点を当て、接合箇所ごとに詳細な貫通孔の開孔角度とパテでの穴埋めを見せることで「一発で決まる快感」を覚えさせるべき
ニンジンぶら下げるのはビギナー相手に限らず大切ですよ。「木ネジで足と腰を接合する」とかそんなBOMEサイズ以外まず誰も採らない手法なんか紹介してお茶を濁してる場合じゃないですよ。だいたい木ネジこそ失敗したら最後じゃん。

続いて表面処理と気泡埋め。
「レジン片で埋めましょう」…それってあらかじめレジン片で埋める気まんまんの人だったらゲート処理の時にストックしておくけど一般家庭ではそんなゴミさっさと捨てます。または捨てられます。こういう細かいところで本当の意味での「初心者の視点」が抜け落ちてるのがどうしても気にかかるなあ。
小さな気泡の処理にはなんとかして光硬化パテを勧めてほしかったという点に尽きます。空条さんがことあるごとに光パテを勧めているのはなんといっても作業効率が異様なまでに高くなるから。気泡を埋めるのが楽しくなるマテリアルって多分他にないと思う。
で、ここでもさりげなく自社のエポパテをカコミで紹介してますが…エポパテ充填しなきゃいけないレベルの気泡は今日びのメーカー製ガレージキットでは到底許されるものではないのでは。

サフ吹き。
初心者でフィギュア、しかもこのサイズのキットにグレーサフ吹かせるのはどうなんでしょ。白サフで充分に表面処理チェックは可能なんでグレーサフはいっそ使用禁止ぐらいの勢いでもいいのでは。
小さいことなんだけどこれもやっぱ大事だと。実際『SATCHIN』描いてる時にもスガワラさんからは「工程数は最小限になるよう、少しでも無駄or代用が利くと思える作業は限界までオミットしましょう」という監修が入ったのを思い出しますな。無駄と思える工程の積み重ねがよりよい完成品への避けて通れない道であることも確かなんだけど、逆にそういった末節に固執するあまり読者=実践する人が疲弊して完成に漕ぎ着けられないんでは本末転倒なんで。

そしてここでもナナちゃん問題発言。
「(サフの)スプレー塗装に失敗した時は(中略)ペーパー掛けからやり直しましょう」
…それのどこが「意外に簡単」なんですか(;´Д`)
「ラッカーシンナーに冒されない」のも光パテのメリットなんで、余計にここは溶きパテより光パテを勧めてほしいなあ。

表面処理もなんとか一段落し、ちょっとだけモデラーの顔になりはじめた着ぐるみですが、いざ塗装となるとやっぱり及び腰。そんな彼に対してかけられたナナちゃんのセリフ。

「ひとつひとつの作業をゆっくりじっくり進めれば満足のゆく作品に仕上がるはずよ」

これもまた通り一遍というかなんというか、無責任なセリフだよねえ…。じゃあその言葉を額面通り受け取って「ゆっくりじっくり進め」ても「満足のゆく作品に仕上が」らなかった人は今後どーすりゃいいんでしょうか。典型的な「あんたは上手くいった側の人間だからそんな風に言えるんだよ」系のセリフ。他人にものを教えるのにマンガ形式を採っておきながらこういう予定調和のセリフ回しで煙に巻いてしまうのは空条さん的に絶対やっちゃいけないことなんですがどうか

塗装のしかた全般については特に大きく気になる点はないですな。というかこのへんはさすがフルカラーだけあって可読性が非常に高く実用的。筆塗りによる塗り分けのレクチャーも敢えてヨレた塗り分けラインを見せてるあたりウソがなくていいです。『手を動かさない人、動かさなくなった人』の記事でも書いたように「きれいな作例」ばかり見ているとどんどん自分とは縁遠い存在になってしまうと思うんで、「これでいいんだよ」ってところをありのままに見せるのは今のご時世ならより大切ではと。
『肌色をきれいに作るには?』と『フィギュアの顔を描いてみよう!』のパートはとてもよくできてます。むしろここさえ高いレベルで完成させられればほとんどの難点はカバーできてしまうはずなので、もっともっと紙数を割いてもよかったんじゃないでしょうか。「なぜこの作例では瞳の形を左右で異なったふうに描いているのか」といった細かい技術、なんで自分の描く顔はあんまり可愛く見えないのかを理詰めで解説してくれるような、2次元の記号を3次元に落とし込む方法論・公式みたいなものをこそみんな待ち望んでるはず。

…以上、あれこれと苦言を呈する部分も少なくないですが基本的な勘所はきっちり押さえてあるのでひととおりの製作ガイドとしてはまあ及第点かなという。ただ先にも述べたように「要所要所で初心者の視点がすっぽり抜け落ちている」点について、模型のみならず様々なジャンルで発表されている所謂『初心者向け』を謳ったガイドブックと比べて大きく秀でた部分もなかったってのが正直なところです。
誰だって何だって慣れてしまえば自分が初心者だった頃どんなところにどんなことを感じたかなんてことは忘れちゃうもので、ほらよくあるでしょ。美少女CG講座とかの本で。
「髪の毛を塗ります。
ざーっと無心に塗ります。
できました」
欲しい情報がなんーにもわかんないってやつ。だからこの手の本を読んで挫折してもね、それは読者の責任じゃないんですよ。挫折させた先生の責任。他人にものを教えるのが上手いか否かってのはつまるところ、そういった責任に対してどこまでハラ括れてるかの程度の差ですよ。

とはいえ商業ベースで実に久々にフィギュア製作のガイドブックが出てくれたこと自体は評価すべきです。完成品にこれだけ押されてる現状で専用のキットまで用意するなんて並大抵じゃないですよ。
手前味噌ながらこれでようやく『SATCHIN』もその役目を終えたかな、と感慨に耽ったりもする空条さんでした。

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